小説 沖縄サンバカーニバル2004

20年前の沖縄・コザを舞台に、現在も続く沖縄サンバカーニバル誕生秘話

第1話 夢

こんな夢を見た。 日差しの眩しい初夏の朝だった。わたしはなぜか石川市のリュウキュウ松が立ち並ぶ海岸に立ち、ぼんやりと海を眺めていた。 4年前に沖縄市に移り住んだわたしは、県北部に行くときには太平洋側を走る国道329号線を使うので、沿道のこの…

第2話 7月16日(金) ドリームショップグランプリ

「ははは、アキさん、それとっても贅沢な夢だって。ブーテンさんと、リンスケさんにフォーシスターズ。いま、そんなステージがあったらチケットとれませんよ、絶対に」 昨晩見た夢の話をすると、倉敷さんはやはり大笑いをした。今日は仕事が早く終わったと開…

第3話 7月17日(土) FMコザ①

パルミラ通りにあった頃のFMコザ「みんな元気かーい! さあ、『ヒカリのピカッと音楽』が始まるぜぃ!」 地元で活動する男性ギタリスト、桃原ヒカリさんがDJを務めるのは、FMコザで毎週土曜日、夕方6時から放送されている音楽トーク番組。FMコザは今…

第4話 7月18日(日) サンバチーム

サンバ居酒屋オ・ペイシ お店のオープンとともに結成したのが、サンバチーム「オ・ペイシ・キ・ヒ・ダ・コザ」。コザの笑う魚という意味で、夫が「不思議の国のアリス」に登場する猫の名前をもじってつけた。ふざけた名前だと言う人もいるけど、楽しい感じが…

第5話 7月19日(月) イチマブイ

嘉手納基地に降りたつ米軍哨戒機 国体道路より撮影 お店の製氷機から氷をすくってアイスボックスに詰め込むと、夫が運転する中古の日産セレナは嘉手納基地のフェンスに沿って国体道路を進んでいく。飛行機の進入路を横切る時に、助手席に座るわたしからは着…

第6話  7月29日(木) カーニバル開催決定

開店の準備をしている午後5時少し前。お店のドアが勢い良く開くと、幸江さんが入ってきた。したり顔でカウンターの前まで大股で歩いてくると、座りもせずに両手をドンとついて、「アキさん、決定! 決定よ! 沖縄サンバカーニバル、ゴーサインが出た!」 大…

第7話 7月30日(金) ペイ・デイの夜

シャッター街にお店を出したんだから、さぞかし大変な思いをしてるんだろうと言われるけど、まあ、確かにこの4年間、山あり谷ありだったかな。 2000年9月、ドリームショップ1号店としてオープンした時には地元のマスコミ各社が大きく報じてくれて、連…

第8話 7月31日(土) 中央パークアベニュー

結局、昨日の夜、リサちゃんがナーナーを迎えに来ることはなかった。 夜中の3時まで起きていたわたしは「あの女、どこほっつき歩いてるんだ」と何度もつぶやいたけど、ナーナーの寝顔を見るのも楽しかった。女の子がうちにいるのもいい。ただし、朝起きると…

第9話 8月5日(木) 沖縄とブラジル

1908年第1回ブラジル移民781人を乗せた笠戸丸 沖縄からは325人が乗船 うちはブラジル料理のお店なので、もちろんブラジル人のお客さんは少なくない。ジャニースのようにアメリカ軍関係者と結婚して基地に住んでいる人がほとんどだけど、基地とは…

第10話 8月6日(金) YMCA

今日のイベントは沖縄市商工会議所の親睦会、というか立食パーティー。 ドリームショップ・グランプリは商工会議所が主体となった企画だったので、この4年間、何かとイベントに呼んでもらっている。そりゃー、幸江さんがいうように客寄せパンダかもしれない…

第11話  8月13日(金) 米軍ヘリ墜落

いずみちゃんと尚ちゃんと話ができたせいもあり、次の日にアルバイトに来たリサちゃんとは普段道りに顔を合わせられた。リサちゃんも別にわたしに臆することもなく、「アキさん、新里酒造の社長さん、いい手応えでしたよ。カーニバル近づいたら、連絡くださ…

第12話 8月14日(土) FMコザ②

「みんな元気かーい! さあ、『ヒカリのピカッと音楽』がはじまるぜぃ! 今夜のゲストは中央パークアベニューのブラジル料理店、オ・ペイシのアキさんでーす!」 地元で活動するギタリスト、ヒカリさんがDJを務めるFMコザのトーク番組に、今月も呼んでも…

第13話 8月15日(日) 缶から三線

今日も遊歩道での練習会は4時に切り上げて、お店の客席を使ってテーマ会議を開いている。ただ、開始早々、夫から提案があった。「まだ完成じゃないんだけど、『缶から三線』でだいたいの歌詞とメロディーを作ってきたんで、聞いてくれるかな」 夫はそう言い…

第14話 9月1日(水) ウークイ

今年の沖縄のお盆は8月30日が初日のウンケーで、9月1日が3日目のウークイ。先祖の霊を再びあの世に送り出すウークイの日には、県内の多くの小中学校はお休みだけど、沖縄市では半日授業にしかならない。もっとも、今日は2学期の始業式だけど。 ただし…

第15話 9月8日(水) 通り会会議

ウンケーの夜から風力を強めた台風18号は、5日の日曜日の夕方には名護市の上空を通過。この日はもちろんサンバチームの練習会は中止にしたけど、お店の方は開けることにした。 沖縄って台風が来ようが構わず飲みに来る客がいる。ただし、さすがにこの日は…

第16話 9月10日(金) Aサインの街

まだパレードの真っ最中だというのに、隊列が途切れてしまった。本来、色とりどりの仮装をまとった参加者で埋るはずの800メートルのコース、その半分が無人となってしまっている。夜明け前の午前4時、立ち並んだ照明塔のまぶしさがむなしい。「10台目…

第17話 9月11日(土) FMコザ③

「みんな元気かーい! さあ、『ヒカリのピカッと音楽』がはじまるぜぃ! 今夜のゲストは中央パークアベニューのブラジル料理店、オ・ペイシのアキさんでーす!」「ボア・ノイチ、こんばんわー。みなさんお元気ですかー」 月いちで出演を頼まれているこのラジ…

第18話 9月19日(日) フェンス

5日の練習会が台風で中止になった分、12日の練習は目いっぱいしたかったんだけど、メンバー誰しもがオリオンビアフェストに行きたいことはわかっていたので、3時には練習をやめて、みんなで会場のある沖縄市運動公園に向かうことにした。300円でビー…

第19話 10月3日(日) 空港通り

コザサンバ 1970年頃の空港通り 10月に入りカーニバルまでいよいよ1か月。 夫は「そろそろやらなくちゃなー」と、ここんところ毎日のように近所のベスト電器に行っては、冷蔵庫やら洗濯機やらが入っていた段ボールをもらってきている。 段ボールは、仮…

第20話 10月4日(月) 通夜

台風22号は沖縄本島に近づくことなく大東島の東を北上したため、月曜の朝には風はすっかり収まった。小学校も休校にはならなかったので、息子は元気よく登校していった。ただし、気の重い朝だった。 この日は夕方の6時にリサちゃんと待ち合わせをして、健…

第21話 10月10日(日) ワタブーショー

「みんな、サンバクィーンに選んでもらったのに、練習さぼっててほんとごめん。これから母子(おやこ)ともども頑張りますから、よろしくお願いします」 久しぶりに練習会に顔を出したリサちゃんが、みんなの前でぺこりと頭を下げた。「なにいってるんですか…

第22話 10月16日(土) FMコザ④

小説 「みんな元気かーい! さあ、『ヒカリのピカッと音楽』がはじまるぜぃ! 今夜のゲストは中央パークアベニューのブラジル料理店、オ・ペイシのアキさんです」「ボア・ノイチ、こんばんわー。来月7日、いよいよ沖縄サンバカーニバル開催でーす」「そうそ…

第23話 10月21日(木) 沖縄市役所にて

沖縄国際カーニバル2004のちらし「それでは次は7日、日曜日の行事日程です。プリントに書かれています通り、国道330号線、北側はコザ十字路、南側はプラザハウス、この間4キロを15時より車両通行止めにします。そして16時より両地点から民俗芸…

第24話 11月5日(金) てぃーだかんかんワイド

那覇 てんぶす広場「次はいらっしゃい中継です、今日は国際通り、てんぶす那覇前よりサンバの魅力をお伝えします。関口さん、野田さん」 スタジオの細井という男性アナウンサーがリポーターに呼びかける。すると女性の野田リポーターが、「輝く笑顔、きらび…

第25話 11月6日(土) チャンプルー

いよいよ明日が記念すべき第1回沖縄サンバカーニバル。 男性陣はというと、午前中から保健所跡地の駐車場で山車の組み立て作業をしている。 倉敷さんの設計によると、トラックの荷台に単管で飛行機の主翼、尾翼のように大小のせり出しを段差をつけて作り、…

第26話 11月7日(日) 沖縄サンバカーニバル①

「今日は晴れてよかった!」 自宅のベランダから海を見晴らしていた夫が、小さくそう叫んだ。彼の高校の体育祭の開会式では、学生で組織する審判団の委員長が、そのひと言をだけ言うのが伝統なんだとか。たとえその日が小雨交じりでも。もっとも今朝は雲ひと…

第27話 11月7日(日) 沖縄サンバカーニバル②

3時を回ると、女性陣はそろそろ着替え始める時間となる。特にビキニの女性は念入りな準備が必要だからね。県外参加者の多くは近くのデイゴホテルに部屋を取ってるので、そこで着替えるようだ。 わたしたちコミッサン・ジ・フレンチの衣装は、長袖の上着にミ…

第28話 11月17日(水) しし座流星群

「全然、星流れないですねー」 砂浜に仰向けになったリサちゃんが星空を見ながら、しきりにそうつぶやく。 「おかしいよねー、ニュースでは今日が見ごろだって言ってたのに」 幸江さんも、一生懸命、流れ星を探している。 「隣のトリイ・ステーションが明る…